2016-01-01から1年間の記事一覧

香水がほしいという話

案外、乏しい記憶のほうが身体のなかに色濃く残るということがある。香りや響きは、それがかたちを残さないという一方でひどく心もとないものでありながら、じぶんのなかで占める記憶の割合はそれらのほうがずっと比重というか、重さが。重さが。重さが違う…

7+5=12

起きて、灰皿の中身が他人のたばこでいっぱいになっていて、昼過ぎで、西日が近づいて、電気代の催促状がドアの下に挟まれていて、車の音が聞こえて、膝や肘にからんだ痛みがにわかにたちのぼって、確かめる。伸びをしようとすると押し入れのあいだにからだ…

商店街通りの沿いの電柱にうずくまっていると自転車に乗った警官が声をかけてきたことで目を覚ました。二日酔いのときは神の実在を確信する。おまわりさん(と呼ばれうるところの存在者)を照らしていた日の差す中を浮遊霊さながらに歩いていくと八時を大き…

あるいは武蔵屋ライス大の精液色の苦痛について

大食漢なのは昔からで、健啖と呼ぶには少し貧乏性の過ぎる飯の食べ方を続けていたら見事に腹周りにカルマが蓄積されてきた。贅肉と呼ぶものの、現代では筋トレをする余裕がある人間こそが贅を持っているわけであって、さもなくばただ肥え太る以外に道はない…

えーばんめーすたん

いくらか将来が暗がりに近づいてきたところで、自分の身体感覚としてほろびが目の当たりになることはあまりない。喫煙税か、せいぜいが宿酔くらいの二択で進行している人間曼荼羅の一種として見える。グレコの引き伸ばされた身体、もしくは任意の表象に照ら…

ロックロール滞る

気の抜けたビールを啜りながら数日のことを考えている。記憶は、ひとつには指をさしてそれに目掛けて笑うために存していて、並立する一種のペーソスめいたものを取り払ってどう客体に近づけていくかが肝要になる。そう考えるのであれば、俺がいま啜っている…

野菜堪らず越境

もうずいぶん他人の持ち物が部屋に散らかっていて、いくつものそれを見ていると隔たりがゆるくほぐれている気分がする。拾った楽器はこれで二つ目、それと友達のベースギターとパクったオーディオインターフェース、BOSEのルーパー、喜ばしくないものはいく…

グラデーション

弟に連絡が取れるようにしてくれと電話越しの声が聞こえたのは昼を大幅に過ぎたころだった。地元で麻雀でたいそう羽振りがよろしくなったらしい知人の声は数年前に比べると少し低くなっていた。長閑とした陽の光とかを浴びているにもかかわらず腸の底はもた…

カツ丼屋すたどんすた

産業廃棄物同然の生活を行っていると精神が下降してきた。兆候は減ってはいるものの多いのは困る。困るので日記を書く。 正月の賑わいの底には大晦日に友達と見た『四十歳の童貞男』のよさがまだ染み付いていて、神社の境内をくぐるときにもアクエリアスの時…