オレンジジュース時速八十キロ

居酒屋のトイレでうずくまっていると出てくるのはおそらく接続詞で、モルフォが握ったシーツの端を感じている。照明は暗いオレンジ色だった、「抗菌済」の文字がいやに大きい記憶の、目盛が振り切れるまでをじっと感傷するに決まっている。

車窓の明滅や蓋が転がるリノリウムや時速八十キロのオレンジジュースを一緒くたに食い散らかしていく、たぶん秒針を持った怪獣が塔やビルを薙ぎ倒してしまっているのだ、それからのことを考えるには少し頭を水蒸気にでも当てて、麦酒でも飲んでいるがいい。その足がどしんと音を立てて、泡がこぼれる前に。切符が冷や汗でどんどんふやけるころ、大怪獣は町のど真ん中の噴水に行くだろうから、その熱量にぬるくされないように、たばこの火を消されないように、袂を握り締めて回想する。怪獣はラーメン屋や定食屋を指の先で潰している、粉微塵になったコンクリートや木屑が宙をブンブン舞って、怪獣の目を盲にした。その隙に戦闘機は飛び立つ空に精液状の白斑を塗りたくって怪獣をやっつけに行くし歓声は上がる。だがあまりに彼らが早すぎたがゆえに、光速を超越して、時空間ワープしてしまったがゆえに、あとは呆然と座って麦酒を飲み続けるのみだった。そして怪獣に踏み潰された幽霊たちが他人の喉を抽象化していくさなかの夜、胸骨の浮き出たみずからの胴が、収縮していることにはじめて気付かされる。廃屋から血肉はあとから付与されたものにすぎないと知らされてかれらは、そのために太り続ける。何度も文字にえずく。うっ。おろろろっ。