グースカ六畳の半分を占領している弟の顔を見ながら家を出ると快晴だった。腹の真ん中がじくじく痛んだまま上野に向かう。財布の中に十円しか入っていないような有様だったので、「炊き出し 東京」で調べて上野なら……という塩梅である。だいぶ余裕を持ってい…
軽みを帯びた鳥の息遣いが岩礁の間に間に満ち充ちる。だがここは岩礁ではない。それは息吹の遠のきから推測され、ぼくは耳を欹ててて女の口に横たわっている。右目を。横へ。カーテンのしどろもどろにたゆたう肉体の内臓のはらわたの器官の構成されたところ…
息継ぎに吐息が交じってむせかえる。ちょうど墓の裏側を過ぎた辺りで(息継ぎをするように)もう一度咳をして帰路に向かう。夜半だった。蝉はまだ鳴いているので夏だと思う。そこにおいてまだ夏はサイコー足りえるはずだ。きっと。たぶん。おそらく。暫定的…
酔っ払うと天使が縮こまっているのを感じる。容積の減っていくグラスとか「なんでおまえは固いんだろな」と言われた鉄の柱とか、その根本に小さくなった天使がいる。天使はだからこそいまは視線に満ち溢れていて、それはつまりはぼくたちが登ったジャングル…
はじめ、魂はぴったり六芒星のままで結び付いていたのだろう。それぞれが球体になりたがって回転をはじめたとたんに、すきまにできた三角が刺さるようになった。 朝食のたびに「はじめ、」と繰り返してる感じ。試験監督の号令でいっせいに掻き込むごはん。ス…
樹の瘤がからだに移って増えていく夢をずいぶんむかしに見たのを思い出した。保育所のすぐ近くに城跡があって、そこの夢。根本で寝てると瘤がくっついてしまって、かさぶたみたいに掻きむしると灰色にだんだん変わってきて、取れないなあと思っていると目が…
地元の博物館の原始人の人形がこわかった。小学生の時に遠足かなにかで行って、暗がりで、下から照明で照らされて獣の皮を着たカッコ付きの「人形」自体にそのひとでなさを感じてこわがるっていうのはもちろんあることだろうけど、それ以前にこの人形がこの…
もちろんわたしたちは液体でした。きみが囀るずっと前から。五角形の回転数を合わせる交通整備人のささくれだった手を見るのがいやなので、地面に目を向けるとたいてい昨日の吐瀉物に飲まれてしまう。「数百年前は海だった」と喧伝するわけではないけれど、…
居酒屋のトイレでうずくまっていると出てくるのはおそらく接続詞で、モルフォが握ったシーツの端を感じている。照明は暗いオレンジ色だった、「抗菌済」の文字がいやに大きい記憶の、目盛が振り切れるまでをじっと感傷するに決まっている。車窓の明滅や蓋が…
石畳を踏みつけていく間に街はどんどん加速していきます。ラーメン屋のダクトから流れる多分に醤油を含んだ蒸気は三歩でも歩けば豚骨を含み始めますし、やがて媒体として行き交います。ホテルのなかでの睦言は高速で暗号として変換され、カラオケ屋の液晶の…
「食べよう!」って言って彼がJR巣鴨駅出口で韓国海苔の袋を開けた瞬間無惨海苔は散らばり、無言で顔を見合わせながら池袋に向かうべく足を進めた。待ち合わせの時刻には雨は止んでいて、往来の多さがとても日曜。海苔を拾うわれわれにどいつもこいつも見向…
「あれこれいけるんじゃね?」「いけるっぽいよ」「やるべきだよ」「いやほんとぉ、マジでこのライブにぃ」うんぬん。地下鉄過ぎて粒子が飛び交うああ東京これよ東京って死んだ目で呟く先に幻想し、めーるしーめーる彼女のメールの文面どもが流星群のように…
たぶんあのおっさんが読んでたのはかまどに突っ込まれた教皇の絵のところだ。それか怪獣の背中に乗って飛んでくところ。目が悪くて見えなかったけど、ドレの絵だったのはわかったからたぶんそこいら。地震があったのをあとから知ってキリキリキリキリ歩いて…
「蕁草になって……」みたいなことミリアム・グェンが言ってたけどだいたい突っ立って突っ立ってるんだからそれ以外にないよな鮭とかカマキリとかそこらへん、って思いながら起きた。いろいろあった。風邪引いて死にかけてたけどそのままサウナまで五時間くら…
起きて弟と「オムライスいるか」「くれあと水くれ」の応酬から二度寝して、債務や責務を忘れあと親に飯を無心した、オレキトクカネオクレ、頼む。十二時頃合いわりと絶望して(オムライスはおれが米炊くの失敗したから弟いわくは20点だった。おれは豚のよう…
地下鉄の切符買って税金の十円分に魂を食われ死んだ目でウネウネ動く列車に乗ってたら体のウネウネが同調し始めてウネウネなりながらこのウネウネで光合成して永遠に生きられないかしらと思うんだけど無駄なあがきだ。渋谷に着いて表参道で降りた外人の末路…