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帝王切開

もちろんわたしたちは液体でした。きみが囀るずっと前から。五角形の回転数を合わせる交通整備人のささくれだった手を見るのがいやなので、地面に目を向けるとたいてい昨日の吐瀉物に飲まれてしまう。「数百年前は海だった」と喧伝するわけではないけれど、けれど、喉元や鼻の穴に残った塩気を思い出すには充分なともしび、街灯と同時に夜が歩いてくる。公園の辺りから石畳の方まで池は満ち充ちて、卵の白身のようにふくらんだ水面がある。わたしたちはその腹を撫でて、もはや浮かぶとも沈むともつかない。くさむらをいっぱいに吸い込んで、心臓の襞が湿って、滲んで落ちてしまいそうだ。こきゅう、というさかしらな動作を作動させる肺腑だってあえいでいる。熱さ、気管の真ん中で、何度もグルグル繰り返す。もちろんわたしたちは液体でした。液体はわたしたちではなかったけれど。うっすらとふくらみが割れる。その、裂け目から、訪れてくる。鵜飼いだと思えば違うようで、声、や、音、が、訪れていった。浮浪者は空き缶を拾うのに精一杯だった。