うーみおとせ

石畳を踏みつけていく間に街はどんどん加速していきます。ラーメン屋のダクトから流れる多分に醤油を含んだ蒸気は三歩でも歩けば豚骨を含み始めますし、やがて媒体として行き交います。ホテルのなかでの睦言は高速で暗号として変換され、カラオケ屋の液晶の粒子の端部やオーロラビジョンの巨大スピーカーから流れるポップスにジワジワと潜り込んでいきます。それらはもちろん洪水であってまた、ピストンを動かす蒸気でもあるわけです(どこからか汽笛の音がします)。そう、雨、は確かに縦書きであり、それはまたわたしたちのそれぞれの別離を予見します。わたしたちは一介の横書きのその点やら線やらの惑星に過ぎません。行と行のあいだの苦い怠惰を食んでいくかなしみは、おそらくはビルの隙間に眠る野良猫と似たようなものだとは思いますが、けれどもそう言い切るには、わたしたちはどうにもいっぱいご飯を食べすぎていますもの。ダクトから流れる蒸気がハンバーグになったり牛丼になったりしたあとだんだん臭気を失って、わたしたちが感じるのは純正の速度ですが、その速度が示すのは蓋を開けたインク壺のぽっかりとした闇です。やがて三人称の雨が降ります。