日記:N・S・ハルシャ展の感想(六本木がこわい)

六本木はいつ来ても慣れない。と言っても数えられるほどにしか来たことはないが、街そのものが持っている性質がすでにこわい。端的に言うと「いっぱしの都市生活者とじぶんは思い込んでいたがやっぱりおまえ田舎者じゃん」、というのを街全体に突きつけられ…

身体について;俺はなぜ行進ができないのか

肉と骨はたやすくくずれる。語源的解釈。肉は動物の皮膚に覆われ骨に付着する組織のひときれを描いたものであり、骨は肉の中心に位置し、それが集ることで體(からだ)となる。統合としての身体は、それぞれが別個の機械によって成り立っており、ブリコラー…

小説:皮膚のイ、縦書きの雨

犬の表面がぬめぬめしている。驟雨だった。舌打ちと歯ぎしりを入れかえながら男が雨戸を閉める。最初は弱拍からはじめて、ゆるやかに大きくなる。トタン小屋のなかで火をつけようとするも木材は湿っててんでつかない。舌打ちにクレッシェンドが混ざる。穴か…

香水がほしいという話

案外、乏しい記憶のほうが身体のなかに色濃く残るということがある。香りや響きは、それがかたちを残さないという一方でひどく心もとないものでありながら、じぶんのなかで占める記憶の割合はそれらのほうがずっと比重というか、重さが。重さが。重さが違う…

7+5=12

起きて、灰皿の中身が他人のたばこでいっぱいになっていて、昼過ぎで、西日が近づいて、電気代の催促状がドアの下に挟まれていて、車の音が聞こえて、膝や肘にからんだ痛みがにわかにたちのぼって、確かめる。伸びをしようとすると押し入れのあいだにからだ…

商店街通りの沿いの電柱にうずくまっていると自転車に乗った警官が声をかけてきたことで目を覚ました。二日酔いのときは神の実在を確信する。おまわりさん(と呼ばれうるところの存在者)を照らしていた日の差す中を浮遊霊さながらに歩いていくと八時を大き…

あるいは武蔵屋ライス大の精液色の苦痛について

大食漢なのは昔からで、健啖と呼ぶには少し貧乏性の過ぎる飯の食べ方を続けていたら見事に腹周りにカルマが蓄積されてきた。贅肉と呼ぶものの、現代では筋トレをする余裕がある人間こそが贅を持っているわけであって、さもなくばただ肥え太る以外に道はない…

えーばんめーすたん

いくらか将来が暗がりに近づいてきたところで、自分の身体感覚としてほろびが目の当たりになることはあまりない。喫煙税か、せいぜいが宿酔くらいの二択で進行している人間曼荼羅の一種として見える。グレコの引き伸ばされた身体、もしくは任意の表象に照ら…

ロックロール滞る

気の抜けたビールを啜りながら数日のことを考えている。記憶は、ひとつには指をさしてそれに目掛けて笑うために存していて、並立する一種のペーソスめいたものを取り払ってどう客体に近づけていくかが肝要になる。そう考えるのであれば、俺がいま啜っている…

野菜堪らず越境

もうずいぶん他人の持ち物が部屋に散らかっていて、いくつものそれを見ていると隔たりがゆるくほぐれている気分がする。拾った楽器はこれで二つ目、それと友達のベースギターとパクったオーディオインターフェース、BOSEのルーパー、喜ばしくないものはいく…

グラデーション

弟に連絡が取れるようにしてくれと電話越しの声が聞こえたのは昼を大幅に過ぎたころだった。地元で麻雀でたいそう羽振りがよろしくなったらしい知人の声は数年前に比べると少し低くなっていた。長閑とした陽の光とかを浴びているにもかかわらず腸の底はもた…

カツ丼屋すたどんすた

産業廃棄物同然の生活を行っていると精神が下降してきた。兆候は減ってはいるものの多いのは困る。困るので日記を書く。 正月の賑わいの底には大晦日に友達と見た『四十歳の童貞男』のよさがまだ染み付いていて、神社の境内をくぐるときにもアクエリアスの時…

ピーター・ブルック『バトルフィールド』のジャンベがヤバい

新国立劇場、開演は七時ごろ。初台駅に着いたあたりですでに道ができはじめていて、初めて行ったのだけど新国立美術館と同じようにどうやら地下鉄の駅からそのまま行けるらしい。演劇は高校のときに地元の高校生が文化コンクールみたいなので寺山をやってい…

冷やし中空

冷やし中華を食べる間もないままに夏が終わってしまった。おそらく、これはわが阿頼耶識に保存され、死後多大なる負債として現れるであろう。ゴミを出すのを忘れていた。流しはまだ掃除していない。おそらくこれも。巨大なぶっ飛んだスパンで構築されている…

セックスオンザ既視

鶏肉を醤油で煮込む。世知辛いくらいに暑い。圧力釜の底にこべりついたイベリコ豚の残骸を眺めている、うそ。ほんとはカナダ産。腐りかけのキャベツを千(実際は五十)切りにしている視界の先端に浮遊する油が眼鏡に付く、珍しくもも肉、いつもは胸肉なんて買…

ストロングゼロについて知っている二三の事柄

ア、バアバアバ。2009年である。テトラポッドの間に間にを漂うフナムシの光沢が二桁の予感を知らしめて、ハリーポッターはちょうど不死鳥くらい、俺は城跡の上で酒盛りを続けていたはず、スピークムネモシュネ、スピークムネモシュネ。蜂須賀公は盗賊からの…

肥満児が見てる

夕方に銭湯に行った。いつもは靴箱の33番を使うのだが、日曜日の夕方となると行楽を終えて戻ってきた親子やら若者やらでごった返して案の定空いていない。左横の41番にスリッパを入れた。目線の高さと手の高さにちょうど合う位置で、かつ覚えやすい数字かど…

成田エスプレッソ

黄緑色のトレーに乗った白色オンリーのサラダの群れを見ていると自らの色彩センスのなさに辟易する。しかしこの食堂のサラダは総じてクソ不味くいかに及第点を選び取るかが問題でして、そうなると無難なコールスローやおそらく不味くなりようのないポテトサ…

ポンカレーの見える海

地元マァヂ愛してっから、マァヂ地元愛してっから、ということを爆笑しながら話す人間の顔には、常に口の端の皺やらに暗いものがいつまでも付き纏っている。郷里の話なんぞしとうないしとうない!と駄々を捏ねていたものの、その、地元と呼ばれるものに付随…

夢でなし

久々に長い夢を見た、もう書いたので別に書かないけれど、よかった、夢の中で旅行するのはなんとも楽しい、けれど薄暗さがずっとあった、起きても暗いままだった。ビジネスホテルのカーテンの遮光性の高さは、普段日光でレムを阻害されてうううと起きるより…

居酒屋で忘れた煙草のラスイチにほら、その、もう少し下らへんというか、下降している感じみたいなものがあって、そいつらは頻りに信号待ちくらいで、刺してくる。学者の地層を眺めるときの目付きと、片眼鏡の奥で光る瞳孔の、その間に立ち尽くしている倦怠…

いぬくさい

うう、とかああ、とか喚いていたりする。犬臭い!築地市場のホルモン丼を考えて、まだまだ、状態はちっともよくない、漫然として、テンポがぜんぜん上がらない、た、あ、む、た、あ、む、……白線の内側を越えた双子の片割れ、冷静さを欠いたに違いない、それ…

膣内バレー

東京の話をしてみようとすると途端に途端にその、町がぼやけていく感覚がある。と言うのも実際二年ばかり住んでみたものの、未だ知っているのは微細な特徴だとかではなくて、単なる答え合わせに過ぎなかったからだ。感傷的な文章に合わせるために都市がある…

(汗)

実家は海沿いの神社の裏にあって、朱色のペンキで塗りたくった鉄の階段を上らないと居室に入ることができない。階段の天辺から転げ落ちる夢をこどものころに何度か見た。母親に聞いてみるとやはり落ちたようで、傷はなかったがたいそう泣いていたらしい。靴…

セイベベ

物心が付いた気が未だにしない。中空に自分の魂がふわふわと浮いたままで、日常的に幽体離脱しているからこのような身体なのかなあなどと体育祭で行進ができずに端っこの方に追いやられていたころ、思った。身体が不器用で、などと言い出すと、それは誰が、…

エンドレス反吐

麦酒が剥奪するのは間違いなくそれ、復唱しろ。日毎にどんどん「あーなるほどーこれねー」という風にさまざまなものが二次的に想起するのだろうけど、そうして総称されるところのものは幽霊であるし、つめたい。アイスクリーム食べたそのあとの頭痛のことは…

麺類インジ阿頼耶識

「兄ちゃん、これ開く?」駅前の石作りのベンチの上で友人と座ってたばこを吸っていたら横で座っていた爺さんから唐突に声をかけられた。テカテカ光った好色そうな顔と雑な洋服に少したじろいだが、異臭もしないし安そうなキャリーバッグも汚れてなかったの…

ウィンドウズのエラー音

グースカ六畳の半分を占領している弟の顔を見ながら家を出ると快晴だった。腹の真ん中がじくじく痛んだまま上野に向かう。財布の中に十円しか入っていないような有様だったので、「炊き出し 東京」で調べて上野なら……という塩梅である。だいぶ余裕を持ってい…

うねり大感謝祭

軽みを帯びた鳥の息遣いが岩礁の間に間に満ち充ちる。だがここは岩礁ではない。それは息吹の遠のきから推測され、ぼくは耳を欹ててて女の口に横たわっている。右目を。横へ。カーテンのしどろもどろにたゆたう肉体の内臓のはらわたの器官の構成されたところ…

息継ぎに吐息が交じってむせかえる。ちょうど墓の裏側を過ぎた辺りで(息継ぎをするように)もう一度咳をして帰路に向かう。夜半だった。蝉はまだ鳴いているので夏だと思う。そこにおいてまだ夏はサイコー足りえるはずだ。きっと。たぶん。おそらく。暫定的…

卵黄

酔っ払うと天使が縮こまっているのを感じる。容積の減っていくグラスとか「なんでおまえは固いんだろな」と言われた鉄の柱とか、その根本に小さくなった天使がいる。天使はだからこそいまは視線に満ち溢れていて、それはつまりはぼくたちが登ったジャングル…

世紀末試験

はじめ、魂はぴったり六芒星のままで結び付いていたのだろう。それぞれが球体になりたがって回転をはじめたとたんに、すきまにできた三角が刺さるようになった。 朝食のたびに「はじめ、」と繰り返してる感じ。試験監督の号令でいっせいに掻き込むごはん。ス…

唐揚如来

樹の瘤がからだに移って増えていく夢をずいぶんむかしに見たのを思い出した。保育所のすぐ近くに城跡があって、そこの夢。根本で寝てると瘤がくっついてしまって、かさぶたみたいに掻きむしると灰色にだんだん変わってきて、取れないなあと思っていると目が…

地元の博物館の原始人の人形がこわかった。小学生の時に遠足かなにかで行って、暗がりで、下から照明で照らされて獣の皮を着たカッコ付きの「人形」自体にそのひとでなさを感じてこわがるっていうのはもちろんあることだろうけど、それ以前にこの人形がこの…

帝王切開

もちろんわたしたちは液体でした。きみが囀るずっと前から。五角形の回転数を合わせる交通整備人のささくれだった手を見るのがいやなので、地面に目を向けるとたいてい昨日の吐瀉物に飲まれてしまう。「数百年前は海だった」と喧伝するわけではないけれど、…

オレンジジュース時速八十キロ

居酒屋のトイレでうずくまっていると出てくるのはおそらく接続詞で、モルフォが握ったシーツの端を感じている。照明は暗いオレンジ色だった、「抗菌済」の文字がいやに大きい記憶の、目盛が振り切れるまでをじっと感傷するに決まっている。車窓の明滅や蓋が…

うーみおとせ

石畳を踏みつけていく間に街はどんどん加速していきます。ラーメン屋のダクトから流れる多分に醤油を含んだ蒸気は三歩でも歩けば豚骨を含み始めますし、やがて媒体として行き交います。ホテルのなかでの睦言は高速で暗号として変換され、カラオケ屋の液晶の…

涅槃灰皿

「食べよう!」って言って彼がJR巣鴨駅出口で韓国海苔の袋を開けた瞬間無惨海苔は散らばり、無言で顔を見合わせながら池袋に向かうべく足を進めた。待ち合わせの時刻には雨は止んでいて、往来の多さがとても日曜。海苔を拾うわれわれにどいつもこいつも見向…

Aはガンガン晴れおまえの声なんか聞いちゃいない

「あれこれいけるんじゃね?」「いけるっぽいよ」「やるべきだよ」「いやほんとぉ、マジでこのライブにぃ」うんぬん。地下鉄過ぎて粒子が飛び交うああ東京これよ東京って死んだ目で呟く先に幻想し、めーるしーめーる彼女のメールの文面どもが流星群のように…

ビートビートビーツ

たぶんあのおっさんが読んでたのはかまどに突っ込まれた教皇の絵のところだ。それか怪獣の背中に乗って飛んでくところ。目が悪くて見えなかったけど、ドレの絵だったのはわかったからたぶんそこいら。地震があったのをあとから知ってキリキリキリキリ歩いて…

見渡す限りのそうめん(液状)

「蕁草になって……」みたいなことミリアム・グェンが言ってたけどだいたい突っ立って突っ立ってるんだからそれ以外にないよな鮭とかカマキリとかそこらへん、って思いながら起きた。いろいろあった。風邪引いて死にかけてたけどそのままサウナまで五時間くら…

記憶がジェノサイド

起きて弟と「オムライスいるか」「くれあと水くれ」の応酬から二度寝して、債務や責務を忘れあと親に飯を無心した、オレキトクカネオクレ、頼む。十二時頃合いわりと絶望して(オムライスはおれが米炊くの失敗したから弟いわくは20点だった。おれは豚のよう…

レペゼン、レペゼン

地下鉄の切符買って税金の十円分に魂を食われ死んだ目でウネウネ動く列車に乗ってたら体のウネウネが同調し始めてウネウネなりながらこのウネウネで光合成して永遠に生きられないかしらと思うんだけど無駄なあがきだ。渋谷に着いて表参道で降りた外人の末路…